【今こそ人間学vol.10】 徳は孤ならず 必ず隣あり

コラム

 7月3日に20年ぶりの新紙幣が発行されました。ご存知のように、これまで紙幣の顔となってきた人物は当然ながら日本の国に対して大きな貢献のあった方々です。そして今回の顔ぶれは近代日本に貢献のあった方々で、経済の澁澤栄一(1万円)、教育の津田梅子(5千円)、医学の北里柴三郎(1千円)。今日の日本が抱える課題解決への期待が込められているように感じているのは私だけではないでしょう。
 中でも期待が一番大きいのは、日本経済の再興、強化ではないでしょうか。澁澤栄一は近代日本の発展の基礎を築いた人物で、設立に関与した会社は500社とも言われます。彼は埼玉県深谷の農家に生まれますが、幼少期より父親から直接『童子教』(どうじきょう)の素読を仕込まれ、次いで従兄の尾高惇忠(あつただ)から四書の指導を受けました。彼が『論語』を座右の書としていたことは皆さんもよく知られるところです。『論語』は全20編、500章句から構成されますが、その中でも常に澁澤の心にあった言葉が「徳は孤ならず 必ず隣あり」です。
 「徳」と「仁」は日本人が大切にしてきた人間としての要素です。「仁」は歴代天皇のお名前に付けられているように、我が国が建国以来大事にしている「無私の精神で他人を心から思いやる心」です。それに対して「徳」は、私たち一般庶民が日々の生活の中で自分の身を正し、世のため人のために報いを求ずに尽くす貴い行為により自然と授かる品性です。個々人が積む「陰徳」には必ず共感者が現れます。
 この国「地の塩たる人々」は、このようにして美しい日本を守ってきました。日本を訪れた外国人が感じる日本の快適性とは、「おもてなしの心」を支える「徳」によって支えられているのです。「今だけ金だけ自分だけ」という利己主義は日本人に似合いません。一刻も早く真の日本精神を取り戻しましょう。

(一般社団法人 令和人間塾・人間学lab. 理事長 竹中栄二)

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