宍粟市は築40年が経過して老朽・狭あい化が課題となっている公立宍粟総合病院(同市山崎町鹿沢)の移転建替計画について、昨今の建築資材・労務費上昇で事業費の大幅膨張が避けられないことから基本設計の見直しを行った。
新病院の事業費は2021年末の基本計画策定時に約124億円と見積もっていたが、基本設計が完了した昨年2月時点で約155億円に増大。しかし価格高騰の動きは止まず、ここに来てさらに膨れ上がることが判明したため、工事内容を見直した上で再度、概算事業費を算出し、7月下旬から開いた説明会で公表し、市民の理解を求めた。
主な見直し内容は、▽病棟西側のホスピタルガーデンのロングベンチや健康遊具設置を取りやめて芝生広場に変更▽駐車場とバス乗降場から正面玄関に向かう通路ひさしの木製ルーバー設置を取り止め▽病院棟と会議室棟の中庭を取り止めた上で建物を免震構造から耐震構造に変更▽機能を落とさない範囲で外壁や空調設備などの仕様を変更▽病児・病後児保育機能の取りやめによる院内保育所の規模縮小─など。入院・外来診療、リハビリ、透析、手術など医療機能は当初計画を維持する。
ただ、これらの対策を講じても工事費は26.7億円上振れし、これに工事請負契約を締結する来年6月までの物価上昇補正費約19.6億円と工事中の予備費約2.8億円を加えると、全体の事業費は約198億円になってしまうという。
このことから市は、開院10年間の合計で約6.1億円の赤字と想定していた純損益(診療で発生する総収益から総費用を差し引いた額)が約43.7億円の赤字に下振れし、10年間で約27億円プラスと想定していた単年度資金収支(純損益に建設費や医療機器の減価償却費などを加味した額)は約4億円のマイナスになるとの試算も発表。
それでも、病院は2023年度決算で現金預金を約21億円保有しており、資金不足額を毎年補てんしても10年後にまだ約17億円を残し、市の一般会計繰出金は年平均1900万円の増額にとどまるとして、市と病院の双方が「病院が資金不足に陥ったり、市に大きな財政負担を強いることはない」と市民の不安払拭に懸命。
市民の間には計画当初から財政面を不安視する声が上がっており、今なお計画への反対意見が少なくないことから、説明会では「西播磨北部で唯一の公立病院。地域医療をしっかり守らないと未来に展望を開けない」(福元晶三市長)、「若手医師を育成・定着し、産婦人科と小児科医療を維持するためにも、どうしても必要だ」(佐竹信祐院長)と、両トップも直接説得に当たった。
新病院は山崎町中比地で用地取得済み。今回の見直しにより、開院は1年遅れの2028年3月となる。