【今こそ人間学vol.6】明徳を明らかにすることで未来を拓く

コラム

 令和6年甲辰の年は、元旦から激震で始まってしまいました。被災地の皆様に一日も早く平穏な時間が戻りますことを心から祈念しています。辰年は飛躍の年であるとか、縁起の良い年だと言われながら、いきなりの禍に出鼻をくじかれた日本経済ですが、これから始まる世界の大激変を前に、現実を見直し、足元を固めるという意味で、我々はこの試練を乗り越えなければなりません。
 中国の古典に『大学』があります。この書は我が国の為政者(リーダー)にも「人の上に立つ人」が身に付けるべき心得として読まれてきました。薪を背負った二宮尊徳が道を歩きながら読んでいる書もこれです。
 松下幸之助さんは、会社を繫栄させるためには徳育を中心とした教育が社内にも必要だと気づかれました。そして、その指導を成人教学研修所の伊與田覺先生に依頼されました。「モノを作る前に人をつくれ」という松下さんの思いを受け、伊與田先生が最初に講じられたのが『大学』です。50時間をかけて、リーダーに『大学』の素読、浄書、解釈をされました。爾来、松下電器産業では管理職になる前に必ず人間学研修を受け、『大学』を読み込むことが義務づけられました。
 「大学の道は明徳を明らかにするに在り」は『大学』の冒頭にある言葉です。人は誰しも生まれ落ちた時には純粋無垢な心を持っています。これを明徳といいます。赤ちゃんの笑顔が大人たちを和ますのは、心の中に何のわだかまりもないからです。これが、成長し、いろいろな経験を重ねることで、「私心」「欲」「我」というものが生まれ、心の鏡を曇らせていくのです。為政者、人の上に立つ者は絶えず心の塵を払い、赤子のような澄み切った心でものを見るようにしないと判断を誤ります。「明明徳を心掛けよ」というのが『大学』の教えなのです。
 「今だけ、金だけ、自分だけ」という考え方が社会に暗雲をもたらしています。この「利己主義」から日本人のDNAに刻み込まれている「利他の心」を取り戻すには、我々が日々の暮らしの中に、絶えず「私心」「欲」「我」を取り除くことに意識的に取り組んでいくことが重要です。

(一般社団法人 令和人間塾・人間学lab. 理事長 竹中栄二)

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