異世界での苦労は。
最初に配属された営業部門では随分戸惑った。飲食業界は消費者と直に接するので、良くも悪くもお客の反応がダイレクト。その分、サービス改善にも即座に対応できた。ところが、製造業ではそうもいかない。特に価格面では、小売店や問屋も利益を確保するため丁々発止の交渉をしてくる。
当社のモットーは、他社より機能的な製品を同等もしくはより安い価格で提供すること。苦労して完成した製品の売価が安すぎたのか、持って行った問屋で「こんな値段じゃ売れない。作っても意味ないよ」と言われた時はショックを受けた。当時は尾上製作所の社名が浸透しておらず、余計に大変だった。
今は販売業者に「値入が悪くても回転率が高いですよ」と言えるようになった。
弱い立場からどのようにして脱却できたのか。
それまで販売業者に向いていた当社の目線をユーザーに向け変えた。
当社が扱う分野のユーザーは基本、メーカーで選ぶのではなく、「あのホームセンターが安いからそこに行こう」という買い方をする。つまり、そんなユーザーの固定観念を取り除くためのブランディングに力を入れた。
例えばキャンプ用品では、専門情報誌などから依頼があれば無償貸し出しに応じ、さらに撮影現場にも積極的に同行して作業を手伝うように切り替えた。
ライターやスタイリストとのパイプをしっかりと構築することで媒体に取り上げてもらいやすくなり、結果的にユーザーの信頼につながった。
製品開発に活かすため、全国のキャンプ場へ出向いて生の声を聞くようにも努めている。既存製品もユーザーの意見を参考に、細かい部分をどんどん改良している。
販売業者は売れる商品なら仕入れたいという考えなので、相乗的に当社を大事にしてくれるようになった。
インターネットを活用した製品PRやリサーチにも余念がない。
毎日、自社をエゴサーチ(インターネット上で検索して自己評価を調べること)している。ユーザーの意見に凹むこともあるが、時には当社のピザ釜と他社製の焚き火台を組み合わせて「こんな使い方ができた」というように逆に教わることも。そういった情報を当社がSNSやYouTubeでさらに拡散すれば、すぐに市場が反応してくれるので面白い。
暇さえあればスマホを操作しているから、妻にはいつも叱られてばかりだが。
今後の展開は?
今のまま適正な価格でユーザーのニーズに合った製品を世に送り出し続けたい。急に高級路線の製品を売り出しても、尾上がアウトドアブームに乗って暴走しだしたと笑われるのがオチ。
今後も販路の基本は問屋と小売店。義理も何もあったもんじゃないから国内ではネット販売をメインにしたくない。
あとはアウトドアブームが去った時のために海外進出すること。価格帯でも海外勢には負けることはない。ジョウロやモグラ取り器も海外で十分売れると考えている。コロナ収束後に「国際ガーデンEXPO」で売り込み攻勢をかけたい。
株式会社尾上製作所
姫路市船津町4603-2
TEL.079-232-1261
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