議会から不信任を突きつけられた前町長が再起を賭けて臨んだ太子町の出直し町長選は、11月8日告示、13日投開票の結果、新人で元同町教育長の沖汐守彦氏(65)=無所属=が前町長の服部千秋氏(63)=無所属=を下し、初当選した。投票率は49.54%だった。
同町では服部氏が町長に初当選した2016年以降、町長の好き嫌い人事やパワハラが散見されるとして同氏の政治手腕に疑念を持った多くの町議と同氏との間で軋轢が生じ、特別職人事をはじめ町政にゴタゴタが続いていた。さらに前任の辞職を受け町教育長に就いた沖汐氏も、「小中学校特別教室への空調設置予算を教育委員会に相談なく削った」と服部氏を批判。沖汐氏はこのことで教委や議会の審議が大きく錯綜した責任を取り、残任期間の満了限りで退いた経緯がある。その後、今年夏に後任教育長のセクハラ疑惑が勃発したのが引き金となり、議会が一気に服部氏不信任可決の流れに傾いた。
不信任可決後の服部氏は、議会への解散権を行使せず10月7日に自動失職することで間髪入れず出直し選挙に持ち込むことを選択。「継続こそ力」を旗印に、すかさず選挙準備に入った。
一方の沖汐氏は、役場の現役、OB職員からの懇請を受けて自身初めての選挙戦へ立候補を決意。14人中11人の町議や組織率100%の町職員組合の支援を受け、投票まで1カ月という短期決戦に挑むことになった。
前哨戦を含む選挙戦では、服部氏は公約を記したビラ4種を全戸配布するとともに、過去2回の町長選同様に国道交差点での朝夕の辻立ちに終始。沖汐氏は網干駅前での辻立ちや各公民館での夜毎の集会を通じ、町政正常化や子育て支援の充実などの訴えに声をからした。意気に感じた連合西部地協も町外から大量動員するなど強力に後押しした。
怒濤の短期決戦は、13日20時の投票締切と同時に沖汐氏当確と神戸新聞が速報して終幕。最終的に、前回選挙から2千票近く減らした服部氏に対し、沖汐氏は得票率64%を獲得、約3700票の大差をつけての圧勝となった。
当日、夜更けの選挙事務所でお祝いに駆けつけた支持者らと握手を交わした沖汐氏は、「多くの皆さんに太子町の未来への扉を開けていただいた。与えられた重い切符を手に、公約を着実に推進していきたい」と感謝。また、翌朝には初登庁して「目標は一つ、和のまち太子。子どもたちの笑顔が輝き、高齢者が安心して住める、そんな良い町を一緒につくろう」と幹部職員らに訓示、早速、公務に入った。
町政立て直しへ発射台の準備が整ったかに映った太子町─。ただ、沖汐氏の行政手腕は未知数ゆえ、これから和のまちを復興するには、町職員の盛り立てと議会の建設的議論にかかっていると言えそうだ。
沖汐氏は龍野高校、奈良教育大を卒業後、小学校教諭や兵庫県教育委員会人権教育課長、県立西はりま特別支援学校長などを経て、19年4月から21年9月まで同町教育長。同町老原。